チャイとラスクとパリとカフェオレ


昨日の夜は色々考えを巡らせていると眠れなくなってしまい、どんどん体が冷えていったので、仕方がないから暖かいものを、と思いチャイを飲んで心を落ち着かせた。そのチャイに、ラスクを浸して食べると美味しいかも、と気付き、間接照明の薄明かりの中でそうしていると、昔パリに貧乏旅行に行った事を思い出した。
確か23才か24才の頃、何を血迷ったかバックパック的な服装で一人でパリに行った。「地球の歩き方」を読んで、一番安いホテルを探したら、パリ市内の北駅という駅に一泊2700円くらいのホテルがあって、でもガイドブックの写真はそこそこ綺麗だったので、予約をして行ってみたら、想像を絶する汚さと古さでめまいがした。北駅に着くと、浮浪者たちが私の歩く後ろを10人くらいゾロゾロついてきて、怖くて怖くて猛ダッシュで逃げた。あとからパリの友達にその事を告げると、よくあんな治安の悪い駅に泊まったね、勇気あり過ぎだよ!と半ば叱られながら言われた。
ホテルに着くと部屋は7階で、エレベーターは無く、もちろんポーターも居ないので、螺旋階段で7階まで荷物を運んで、旅疲れと歩き疲れと空腹で、シャワーもあびずにホコリだらけの汚いベッドで朝まで爆睡した。
お金が無いので夕食は抜くと決めていたので(どんなサバイバル旅行だよ!と今更ながら自分にツッコミ)、ホテル代に込みの朝食は至福の時だった。熱いコーヒーにカップ一杯のミルクとたくさんの砂糖と、そして固いバケットだけだったけど、コーヒーとミルクはおかわり自由だったので、カップにコーヒーとミルクを並々と注ぎ、砂糖を大量に入れて、甘い甘いカフェオレを作って飲んだ。パンが固すぎて噛み切れないくらいだったので、カフェオレに浸して食べた。
昨日、チャイを飲みながら、その時の事を思い出した。
当時は本当にお金が無かったから、本当になんでパリなんて行ったのか、今の自分にしてみれば意味不明にも程があるよ!という感じだけど、それでも、シャネルとか、ディオールとか、そういうお店が集まる通りを歩いてみたりした。自分の身なりが汚すぎて、お店の中に入る勇気は持てなかった。その当時はまだタバコを吸っていたので、公園で、朝ホテルの朝食の中からくすねてきたバケットを食べつつ、タバコを吸っていると、知らないパリ人の男が数人やってきて、必ず「タバコ1本くれよ」と言ってくる。怖いので、一本ずつあげてたら、自分の分がなくなっちゃった。知り合いの知り合いの知り合いから紹介してもらった、CITIZEN Kという雑誌の、アートディレクターに、自分のブックを見せに行った。その時は、イラストレーターをはじめたばかりで、たまたまスイスのエージェントと契約をする事が出来て、いくつか仕事をもらっていた(貧乏には変わりなかったけど)。もっと海外で仕事がしたいと思い、パリにも、そんな思いで行った。
CITIZEN Kのオフィスは古いお城みたいな邸宅をモダンにアレンジしたスタイリッシュな空間で、当時の私は「ほんともう、こんな所まで来ちゃってなんかすみません」って感じだった。こんな場所に来るなら、もっとおしゃれして来たかったし、そして自分の身の程を痛いくらいに思い知った。CITIZEN Kの当時のアートディレクターは、アレックスという人で、アレックス宛に何度も何度も電話をかけて、やっと私が帰る日に会えた。当時の私のへたくそな絵を見て、色んなアドバイスをしてくれた。すごくいい人で、またパリに来たら、絶対に作品を持ってきて、見せてね。と言ってくれた。
それ以来、パリには行ってない。
先日、スタジオで美礼さんや土田さん達と、そんな話をした。
今は、あの頃と違う感じで旅ができるんだろうか? でもまだ、ディオールのドレスは買えないし、シチズンKのオフィスにはビビるかもしれない。それでも、年を経て、色々な経験をして、たくさんの人に会って、私は変わったのか。
治安の悪い北駅の、ホテルの人達はイスラム系だったけど、とても良い人達で、またパリに来たらぜひうちに泊まってと言っていたけど、その時、心の中で、次は絶対にもう少しましな場所に泊まりたいな、と誓った。
今年はどこに行くのだろう。去年の1月に無かったものや事が今年はある。
いまさらながら、素晴らしい1年になればいいな!と思う。